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What's JAPAN SENSES
profile
一歩、豊かな森へ。日本人のための靴を、ひたすら追求してきた大塚製靴。140年余りの歴史をしても、素材ありきでの製品化はほぼ前例がなかった。商品開発室長である猪山純史に届けられたのは、ディアスキン。絶滅の危機から一転、この数十年間に急増し、農作物をはじめ、人の手で育てられている森までを食い荒らし、皮肉にも「害獣」となってしまった、ニホンジカの革である。頭数のコントロールと、森の恵みとしての活用普及に努めているのは、坂本龍一氏を中心に森林保全活動を進める「more trees」だ。野趣味ある食材、肌触りのいい革素材として、一部には高い価値を認められているが、国内の捕獲や流通には、まだまだ限界があると訴える。工業デザインを学んだのちに革の魅力に取り憑かれ、人間工学とファッション性を同時に要求される靴の世界に情熱を注いできた、猪山。いつものように思いつく限りのアイデアを抱えて、製造現場に駆け込んだ。野生ならでは引っ掻き傷や弾痕を避けて、パターンをどう切り出すか。シボと呼ばれる表面の味わいを残しながら、納得できる一足にどう仕上げるか。日頃扱う、成育時から十分に管理された素材との違いに戸惑う職人たちと、議論し、試作を繰り返し、目で、手で、確かめていく。サンプルが山になった頃、ようやく思い通りの足を包み込む袋状の構造が、マッケイ式製法で実現した。軽く、返りがよく、足なじみのいい、飽きのこないスリップオン。ただし、完成できたのは少量限定だからで、捕獲方法にまでさかのぼってすべてのプロセスを改善しなければ、量産にはほど遠い。一足に全社を懸け、それを皆の靴に広げよう―社是を全うするはじめの一歩、と猪山は言う。真摯な眼差しの先に、緑の森が待っている。オーツカ シンス 1872 / 紳士靴32,400円(税込) 伊勢丹新宿店メンズ館地下1階 / 紳士靴 日本橋三越本店本館2階 / メンズシューズサロン 銀座三越7階 / 紳士靴
Lush Forests Lie Ahead Otsuka Shoe has been committed to creating shoes for the Japanese for 140-odd years, but despite its longevity the company has rarely worked with new materials. One day, a new material was sent to Junji Iyama, chief of product development. It was leather made from the skin of Cervus nippon, or the Japanese deer. The deer was once endangered but its population has surged in a span of a few decades. It has since ironically become considered “vermin” as they devour crops and man-made forests. Working to control deer numbers and the impact on the abundant forest is “more trees,” a forest-conservation organization led by composer Ryuichi Sakamoto. The deer is highly valued for its unique meat as well its exquisite hides in some areas, but the organization protests there should still be limits in terms of capture and distribution in Japan. Iyama had initially studied industrial design but found working with leather extremely appealing. He is a passionate advocate of in the shoe industry and enjoys work in which ergonomics and a sense for fashion are both important. Iyama was excited by the challenge of working with the new leather and brought many ideas to the production site.The team could not believe their eyes nor stop touching the new leather. Discussions and trials were repeatedly carried out as the craftsmen struggled with this new material, a leather very different from the leathers of animals that are carefully managed while they are still growing. How to avoid the scratches or bullet hole wounds of these wild animals? How to make satisfying shoes while maintaining the tasteful wrinkle patterns on the surface? After making piles of samples, a pouch shape that enveloped the foot as imagined was realized through the McKay style manufacturing method. Light, curved and very accommodating to the foot, one will never bore of slipping these shoes on. Numbers, however, are limited as mass production cannot be achieved unless improvement in processes including the method of capturing the animals are achieved. Iyama says this is the first step of fulfilling Otsuka’s mission to create a single pair of shoes that will capture society’s imagination. Lush forests lie ahead.
Otsuka Since 1872 / Men’s shoes 32,400 yen (tax included) Isetan Shinjuku Store Men’s Building 1F Men’s shoes, Nihonbashi Mitsukoshi Main Store 2F Men’s shoes salon, Ginza Mitsukoshi 7F Men’s shoes.
INTERVIEW
大塚製靴のものづくりの精神についてお聞かせください。
創業は明治5年。以来、長く、日本人の足を見つめ続けてきました。まだ西洋式の靴が日本にはない時代に、創始者の大塚岩次郎が、海外から戻って来た外交官の履いていた靴を「同じ靴を新たに造って納めるから、その靴を分解させて欲しい」と懇願し、その靴を分解して納得いくまで調べ上げたうえ、新品を造って数日後に届けた。その紳士はイギリス製にも優る立派な出来栄えだと非常に感服し、その腕前を絶賛したという逸話があります。先人の熱意、自ら創っていくのだというスピリッツは、今も語り継がれています。皇室にお納めしてきた経緯もあり、大塚にはグレードの高いものを追求する一方、そのものづくりを広く一般にご使用いただけるものにまで広げていこうという考え方があります。毎日の朝礼でも「一足に全社を懸け、それを皆の靴に広げよう」と唱和します。ビスポークに代表されるお一人のための一足から、どなたが履いても不都合がない靴までつくっていこうという姿勢が根本なのです。いいスペックをいかに量産化モデルにも表現していけるか。そこが私たちデザインをやっている者の面白さでもあります。ファッション性だけではなく、機能性と表裏一体だからこういう形になっている。装飾性だけではなく、この形の方が歩きやすい、という意味でのデザインを日々考えています。そういう意味でのデザインと生産性が、ものづくりの基本です。生産性が良くても売れなくては意味がないですし、カラーバリエーションもなければつまらない。その両方が必要なのではないでしょうか。
Can you tell us about the monozukuri (manufacturing) spirit of Otsuka Shoe? There is a story dating back to a time when there were not yet any western-style shoes in Japan. Iwajiro Otsuka, the founder of the company, asked a diplomat who had just returned from overseas for permission to disassemble his shoes. He promised to remake and return the same product. Our predecessor’s enthusiasm and spirit of independent manufacturing is still talked about to this day. We have a philosophy of pursuing high class on the one hand but also for the monozukuri to extend to products which can be used by ordinary people. At daily morning meetings we remind ourselves through recitation of the company’s mission to strive to create a single pair of shoes that captures society’s imagination.
なぜ靴づくりの仕事に就かれたのですか?
学生時代に工業デザインを学んだのちに、革製品の持っている面白さに惹かれるようになりました。靴づくりには工業製品とクラフトの中間にあるような、量産もしなければならないが、人の手も要する面白さがあるんですね。できれば自分の手の中に入る範疇、自分の手でできるものがいいと思いました。しかも、自分で使っても愛着が湧くものをデザインしたいと。眼鏡でもバッグでも良かったわけですが、今思うと、靴で良かったなと思います。人間工学、ファッション性、いろんな要素が靴には入っている。ひと言では言い切れない面白みがあるからです。靴はそもそもコンフォートでなければいけないんですが、トレンドとのバランスもあります。例えば若い人が、1時間履いたら足が痛くなるとしても、10センチのヒールを選びたいかもしれません。それなら、長く履けてカッコいい靴はないものか。そこが企画する者の面白さなんですね。
Why did you choose to work in the field of shoe manufacturing? I joined the company after studying industrial design as a student and becoming fascinated with leather. I find it interesting that creating shoes sits somewhere between industrial production and craftsmanship: Shoes need to be mass produced, but also require a handmade touch. There are many aspects involved in creating shoes such as ergonomics and fashion, and I wanted to design a pair of shoes that I myself could love.
猪山さんにとって大塚製靴の魅力とは?
私の考えを具現化してくれる職人さんが近くにいることです。例えば、ロングノーズが流行っているからといって、そればかりでは歩きにくい。では、つま先の上がり具合や形状をどうすればいいのか、職人さんに削ってもらって試すわけです。靴づくりの現場がすぐそばにある。アイデアは良さそうでも実際にはシワがでてしまうとか、ある部分が足に悪さをしてしまうとか、実際につくる現場に来て、話し合いながらつくれる点は、ものづくりをする人間には恵まれた環境です。色ひとつとっても、写真でやりとりするのではなく、顔を突き合わせて実際に塗りながら試すことができる。新しいトライを現場でできるということですね。自社工場があって、企画を助けてくれるしっかりした技術部門、生産部門がある。そして販売部門も直結している。販売部門がしっかりしていなくては、いいものをつくってもどうにもなりません。生販一体が強みでしょう。三越伊勢丹さんにも売りの場をご提供いただきながら、そこを実験の場として、新しい提案をしたり、お客さまのご要望を吸収したりしながら、バイヤーさんとよりベターなものづくりを考えています。例えば、試験中の手塗りのカラーリングなどは、今までなら30万円の商品だったかもしれない。それを10万円アンダーで実現することができれば、また新しいお客さまへのご提案になる。どうすればできるのか、やっぱり高額にとどまるのか。そんな新たなトライもバイヤーさんとしっかり組めるからできることなのだと思います。
What is the appeal of Otsuka Shoe? There are craftsmen who can realize my ideas. It is a place where I can try new things. We have our own factory as well as technical and production departments that provide much help with our projects. The sales department is also connected. Because of this sales opportunity provided by Isetan Mitsukoshi, I have been able to plan better monozukuri with buyers as I take on board customers’ requests and suggest new ideas.
今回の商品開発で苦労された点は?
今回のように、素材ありきで形に落とし込むケースは稀です。通常は、ご要望、価格設定、数量があって、それならこういうものができますとご提案するわけです。いわば「アッパー(甲革)しばり」というケースは、ほとんどありません。素材が靴づくりに適する、適さないということがあるので、どう靴にしていくか、その試行錯誤が正直大変でした。大塚のメイン製法であるグッドイヤーウェルトでつくってみたのですが、うまくいかない。革をラスト(木型)に合わせて引っ張る、つり込みという工程があるのですが裂けてしまう。つまり、その製法では、革の質感を活かすことができないんですね。そこで、袋式にして縫い上げ、さらに、マッケイ製法を採用することにしました。袋モカ仕立てとマッケイの合わせ、ということになります。最終的な形になるまで、半年以上を費やしてしまいました。サンプルもたくさんつくりましたが、なかなか最終形までいけなかったのです。靴の素材には、厚みや物性など必要な要件があります。通常は、それをタンナーさんにお願いして用意してもらうわけです。物性試験をしないと量産にも適しません。ですから製造から見ると、素材ありき、はほんとうに難しい。今回は少量限定、販路も限ることで実現できました。さらには、素材自体にも難点がありました。捕獲の際の弾痕や引き摺った傷がある。しかも、背中が痒いと樹木に擦りつけたり、草むらで暮らすうちに傷もできるのでしょう。海外でも大規模な牧場で放牧飼育しているケースもありますが、それらは傷も少なくきれいなんです。そういう整った革を見慣れている裁断者たちは「これは難しい」と唸りました。革は材料費の中でも多くを占めますから、原料からどれだけ取れるかが問題です。一頭分から、だぶついた腹やシワの多い首、さまざまな傷を避けて、裁断の知恵をしぼるわけです。革の単位は10cm×10cmの面積を1デシ平方メートルと呼びますが、普通の袋モカで一足あたり25〜6デシくらい、今回の場合はその1.5〜2倍を要していると思います。それも素材一枚一枚のコンディション次第ですが。
Were there any difficulties in developing this product? The materials used in making shoes need to be of a certain thickness and have other special physical properties. Tanners usually take care of this. Mass production is not feasible without each hide first undergoing a physical property test. From this perspective, creating new products based on a specific material is quite difficult. There were also difficulties regarding the deer skin itself. Many hides featured bullet holes and wounds from dragging from when the animals were captured. The deer are wild, scratch their backs on trees when they itch and may have developed wounds. Our cutters who are used to working with more intact leather learned that working with deer skin was a challenge.
完成した商品の特長を教えてください。
何と言っても、袋モカならではの柔らかさ、返りの良さです。見た目にもシボ感などディアスキンの質感を活かし、足なじみがいい点でしょう。足をやさしく包み込んでくれます。年齢が上の方にもおすすめできますし、若い方にはスリップオンとして素足でも楽しんでいただけます。マッケイ製法なので構造上、軽量感があります。足を入れる部分には牛革を使用し、耐久性も十分担保しています。流行にとらわれずに長く楽しんでいただける、大塚らしいオーソドックスなスタイリングです。
What are the features of the finished product? Deer skin is extremely soft and curved making it ideal for moccasins. It is very accommodating, utilizing the feel of deer skin such as the texture that is also visible. It gently envelops the foot and is lightweight as the McKay manufacturing method is used. The shoe is destined to become a classic and with its styling characteristic of the Otsuka brand can be enjoyed by a very long time.
日本のものづくりについて、どう思われますか?
日本の靴づくりも、中国、カンボジア、タイなど海外生産がメインになっています。国内生産では労働工賃と市場価格が合わないことが理由です。靴づくりは、どうしても人の手がかかり、価格に跳ね返ります。従って日本でそれをやろうと思えば、より高付加価値な表現をすることが必要です。製法や仕上げで生き残っていくしかありません。イタリアはマッケイ製法、イギリスはグッドイヤーウェルト製法と、それぞれ伝統があります。ではイタリアにもイギリスに勝り得る日本の価値といえば、フィッティングと素材です。日本製の素材を意識的に多く使うことで、その価値を広めようともしています。ですが、まだまだ高級靴となるとインポートの素材になってしまうんですね。革の風合いや色出しは、タンナーの技術以上に、感覚的なものや原皮の持っているクオリティが違うのでは。また、軟水と硬水の違いなども影響してるんですね。この商品も表底はイタリア製です。やはり向こうの方がうまい。タンニンの具合など、なかなかかないません。なじみの良さ、取り扱いの良さ、削っても面がきれいに出るなど、いいなめしには差があるんですね。ですからオールメイドインジャパンは難しい。適材適所ですね。逆に豚革は日本製がいい。ハイエンドブランド用に輸出しているほどです。また、独自の色付けなどでオリジナルな価値をつくりだすことも一つの方法だと思うんですね。
What do you think of Japanese monozukuri? Shoemaking requires a handmade touch and this is reflected in our prices. Therefore, Japan-made shoes have added value. We need to survive through expert manufacturing methods and fitting.
国産ディアスキンのポテンシャルはいかがでしょう?
オンリーワンの可能性があると思います。素材としてのクオリティを考えた捕獲の仕方をはじめ、さまざまな改善が進めば、靴だけでなく、ジャケットや自動車のシートなど活用の範囲も広がってくるのではないでしょうか。すでにワイルドなテイストのバッグに使うなどされています。さらに、ドレス系でも使えるものにするにはどうすればいいのかを考える必要があるでしょう。今回もいろいろなスタイルに合わせてみましたが、はやりドレスダウン、カジュアルアップなテイストでないと合わない点も課題かと思います。これが、まさにはじめの一歩ですね。
Do you think Japanese deer skin has much potential? It has the potential of being an only one of its kind. If various improvements are made, starting with methods of capturing the animals that considers the quality of the material, I believe deer skin could be used not only to make shoes, but also jackets and car seats among other items. Indeed, this is merely the first step.
三越伊勢丹の「JAPAN SENSES」についてご意見をいただけますか?
まさに日本の、横浜でものづくりをしているものとして、三越伊勢丹さんのご要望にお応えしたいと思います。バイヤーさんと直接お会いして、話し合って進めていくことができます。産直といいますか、ここ横浜工場はバイヤーオフィスのある新宿三丁目と直結する地の利もあり、お客さまの声をすぐさま活かしたりすることもできるわけです。なかなかやりきれてはいませんが、物理的に離れている海外ブランドにはできない取り組みをごいっしょさせていただきたいと思います。
What is your opinion ofIsetan Mitsukoshi’s“JAPAN SENSES”? As one engaged in monozukuri in Yokohama of Japan, I would like to meet the requests of Isetan Mitsukoshi. I am looking forward to cooperative initiatives with them that would not be possible with foreign brands due to the physical distance.
三越伊勢丹のメッセージ「変わる、その先へ。」は、どう響きますか?
メーカーとしては背筋を伸ばさなくては、という気持ちです。メッセージにある内容を、お客さまのために、三越伊勢丹さんと同じ方向を見てやっていくつもりです。大塚のスタッフも販売の現場に立たせていただきながらコミュニケーションを密にしていきたいと思います。まさに「今」である、お客さまの声ひとつ一つを聞きながら、「その先」を常に見つめて、やっていこうと思っています。製品化には、どうしても時間がかかりますから。三越伊勢丹さんがいなければ、今回のように私たちもここまで新しいものへの挑戦をしていなかったかもしれない。それがありがたい、そう強く感じます
How does Isetan Mitsukoshi’s message “Ahead of Change” resonate with you? Our intention is to work alongside Isetan Mitsukoshi. We want to listen to the opinions of customers “now” and will always look at “what lies ahead.” If it weren’t for Isetan Mitsukoshi, we may not have taken on such a large challenge. We are very grateful for this.
ありがとうございます。Thank you very much.
ABOUT PROJECT
三越伊勢丹が毎年この季節に展開する「グロバールグリーンキャンペーン」。森林保護団体「モア・トゥリーズ」との取り組みでは、守るべき森の恵みであるエゾシカ革を様々なアイテムに活かし、ご提案します。マットな質感、適度なボリューム感、遊び心のあるコンビネーションカラーをお楽しみください。Molti Persone モルティ ペルソーネ / 長財布 20,520円 / 名刺入れ 10,692円(いずれも税込) / 伊勢丹新宿店メンズ館1階 メンズアクセサリー、  日本橋三越本店本館1階 / 紳士雑貨、  銀座三越7階 / 紳士革小物  ※5月12日展開予定
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