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What's JAPAN SENSES
profile
静かなる反骨。10代に出会ったモッズが、根本修のその後を決めた。普段からスーツを身に付け、音楽にどっぷり浸かり、スクーターで走り回る。50年代後半から60年代初頭のイギリスで生まれ、スタイリッシュで、どこか若者のやるせなさをはらんだストリートカルチャーに、無条件で虜になった。こうすればもっとカッコいいのにと、スーツのディテールを追い求めるあまり、ついに飽き足らず、20代は、着る側からつくる側への道を駆け出していく。そして、修行時代、サヴィル・ロウの名店へ仮縫いに行くという人物になんと同伴する機会を得るのである。しかも、鷹揚なその紳士は、やがてでき上がった一着を惜しげもなく「教材」として与えてくれた。硬く、構造的なつくりが代名詞のサヴィル・ロウに、まるで背を向けるような柔らかさ。数えきれないほどの古着を分解しては、本場のものづくりを吸収してきた根本だったが、震える指先で真新しいスーツの糸をほどくと、そこに潜むカットや縫製のニュアンスに、まばたきを忘れた。着る人を考えればこうあるべき、と断言するような、小さなアームホールと太めのスリーブ、そしてナチュラルショルダーは、30代で念願の店を構え、評判が評判を呼ぶようになった今も踏襲する。一方で、あえてハウススタイルを持たないテーラーを標榜するのは、いつまでも同じ服をつくるなんて誰が約束できるのか、と思うからだ。ボタン一つで、スーツは変わる。細部にとことん注ぐ情熱。その集積が、端正な見栄えと変わらない着やすさになる。さて、そんな根本の卓越した技が息づく、メイド トゥ メジャー。40代になった青い魂は、まだ納得がいかないのか、また型紙を起こし始めた。いったい何度目だろう。〈リッド・テイラー〉メイド トゥ メジャースーツ 106,920円(税込)から※写真掲載商品は、291,600円(税込)伊勢丹新宿店メンズ館5階=メイド トゥ メジャー
The Quiet Rebel When Osamu Nemoto discovered mod culture as a teenager, it changed the course of his life. He wore a suit every day, immersed himself in the music and rode around on a scooter. He was a helpless captive of this stylish street culture born in the England of the late 1950s and early 1960s, which somehow captured the disaffection of young people. He was always seeking to enhance the details of his own suits, thinking he could make them look even cooler—and in the end, wearing them was not enough, so in his 20s he set out to become a tailor. Then, during his apprentice days, he was given the opportunity to accompany a gentleman he knew to a fitting at a famous Savile Row tailor. What’s more, once the suit was finished, Nemoto’s benefactor generously gave it to him so that he could learn from it. Its softness seemed completely at odds with Savile Row’s reputation for formal, structured suits. Nemoto, who had absorbed the techniques behind authentic suits by taking apart countless vintage garments, unstitched the threads of this brand-new suit with trembling fingertips, entranced by the nuances of the cut and stitching he found there. This, it seemed to declare, is what someone wearing a suit needs: small armholes, thick sleeves, and natural shoulders. These are the principles that Nemoto continues to follow today, having realized his ambition of opening a store when in his 30s and building a growing reputation. If he presumes to call himself a tailor without a house style, it’s because he believes that nobody can promise to keep making the same suit again and again. If a single button changes, the suit has changed. Nemoto is passionate about devoting his energy to fine details. The accumulation of these details results in handsome-looking suits that are always comfortable.  Now in his 40s but still not satisfied, this tailor with the spirit of a youth has gone back to the drawing board for the umpteenth time to create made-to-measure suits that are a testament to his exceptional skills.Lid Tailor made-to-measure suits – from ¥106,920 (including tax)  *Item in photo: ¥291,600 (including tax) Isetan Shinjuku Men’s, 5th Floor (Made to Measure
INTERVIEW
モッズが、テーラーになるきっかけだったそうですね。
10代の頃、50年代後半から60年代初頭のイギリスで流行したモッズに傾倒していたんですね。スーツ、音楽、バンド、スクーターと、ストリートカルチャーの要素が詰まっていました。だから、普段からスーツを着て。そのうちに、ここをこうしたい、ああしたい、とカッコよくなるポイントを自分の感覚で探すようになって、着る側からつくる側になりました。当時のスーツは過激で、そのままビジネスマンのスーツに持ち込むのは無理がありますが、ちょっとしたディテール、例えばスラントポケット、細いラペル、浅いベンツなどのブリティッシュのモダンな要素を取り入れて、一般的なスーツとは少し違って見えるようにしています。
Is it true that mod culture inspired you to become a tailor? During my teens, I adored the mod culture that was fashionable in England from the late 1950s to the early 1960s. I wore suits all the time. To make them look cooler, I would make adjustments here and there based on my own tastes, and after a while, I went from wearing suits to making them.
ハウススタイルをお持ちにならないのは、なぜでしょう?
代表的な服をよく尋ねられるのですが、これというものはありません。持たないようにしているんです、意識的に。10年後、同じものをつくっているかといえば、そうではないからです。トレンドも意識はしますが、ほんとうに自分がいいと思わないと取り入れることはありません。流行って一辺倒でしょう。一枚仕立てがいい、軽い素材がいいとなればみんなそうなるけれど、より構築的にしたり、むしろ逆行したくなるんですね。スタイルがあるとすれば、それは僕の「癖」でしょう。カットや縫製から生まれる味付けみたいなもの。いろいろな形があっても、LIDっぽい。それがハウススタイルかもしれません。モッズも、ベースがありながら、どんどん変わっていった。何かひとつをいいと決めても、変わる。僕は、根っからのモッズなんです。
Why is that you do not have your own house style? Because I won’t necessarily be making the same style of suit ten years from now. If I have a style, I suppose it’s my habits as a tailor—the feel created by my cutting and stitching. Even though I make suits of various types, they all have the Lid touch. Perhaps that’s my house style. The mods were the same: Although they had a basic style, their look kept changing. I’m a mod through and through.
とはいえ、ブリティッシュがベースで、共通してソフトな印象を持ちますが。
サヴィル・ロウでも異質な服づくりをしている、アンダーソン&シェパードの影響です。軍服づくりからスタートした周囲のテーラーが、複雑なコンストラクションと多くの詰めもので固い服をつくっている傍らで、すごく柔らかな服をつくっていました。その姿勢に共感したんですね。アンダーソン&シェパードで修行した経験はありませんが、あるお客さまがスーツを提供してくださって、「分解していい
とおっしゃるので、バラバラにして、調べ尽くしました。それぞれのカットの意味など、完璧ではないかもしれませんが、僕なりにいろいろ分かっていくことがあり、それを自分なりに咀嚼して、自分の服づくりに生かそうとしてきました。基本は、そこからきていると思いますね
That said, don’t your suits have common features? They’re based on the British style and have a soft look. That’s the influence of Anderson & Sheppard, who make clothes that are unusual for Savile Row. I don’t have any experience training at Anderson & Sheppard, but a customer provided me with one of their suits and said I could take it apart, so I separated it into pieces and studied it exhaustively.
お客さまが「分解していい」とは!すばらしい信頼関係ですね。
弟子時代から、お付き合いのある方です。20代の頃、ロンドンに仮縫いに連れてっていただきました。はじめてアンダーソン&シェパードに入り、そのたたずまい、つくり方、つくっているものを目の当たりにすることができたんですね。他のテーラーとの違いを肌で感じ、でき上がった服を見ては、他のサヴィル・ロウとの明らかな差異に衝撃を受け、そういう服を、どうしても自分でもつくりたいと思ったんです。すると、そのお客さまが、せっかくつくったスーツを一着、預けてくださって、「それで勉強しなさい」と。思いもよらないご厚意でした。僕はそのお客さまに育てていただいたようなものです。
For a customer to say you could take a suit apart shows an amazing level of trust, wouldn’t you say? He was someone I’ve known since I was an apprentice. When I was in my 20s, he took me with him to a fitting in London. For me, that customer has been like a mentor.
根本さんは猛烈な勉強家、と評されていますが。
経験していないから、考えるしかないんです。僕には国内でしか修業するチャンスがありませんでした。同世代でサヴィル・ロウで修行したという人は、ごくわずかです。今では、うちにいたアシスタントでもヘンリー・プールに行ったりしていますが。僕は経験していない分、20代の頃は、古着や、ヘンリー・プールやギーブス&ホークスの服をばらしては、見まくりました。その中でも、アンダーソン&シェパードがぴったり来たんですね。テーラーがテーラーに憧れた、というか。ものづくりの異質さと、変わったやり方に飛びついたんです。アンダーソン&シェパードのカスタマーには、ファッション関係者も含めた世界中の著名なウェルドレッサーがいます。同業者も、その魅力を感じとっているのでしょう。
You have a reputation as a keen learner. When you don’t have direct experience with something, all you can do is think about it. I have not had the chance to learn my trade outside of Japan. In my 20s, I took apart vintage clothing and suits by the likes of Henry Poole, and Gieves & Hawks. Anderson & Sheppard was exactly what I was looking for. I suppose you could say I was a tailor who became obsessed by another tailor.
小さなアームホールとナチュラルショルダーの良さはどんな点でしょう?
アームホールが大きいと、体の動きに服がくっついてしまいます。ですから、極力小さい方がいい。そして、スリーブは太く。アームホールが小さくてスリーブが細いと、動きが制限されてしまうんですね。運動量を出すことで、着心地が良くなります。小さいアームホールに太い袖を付けるには、いせたり、アイロンがけに技術が必要で、副資材は極力柔らかいものを使い、なるべく詰めものはしません。肩傾斜にも、極力薄いものを使います。なで肩の人にはパッドを入れるテーラーが多いのですが、うちはフェルト一枚でほぼ対応しています。それも僕のスキルでできる、表現方法のひとつなんですね。
What is the advantage of smaller armholes and natural shoulders? If the armholes are too large, the clothing will catch when you move. That’s why it’s best for them to be as small as possible. And as for sleeves, thicker is better. Allowing leeway for movement makes the suit more comfortable. As for the shoulder slope, I mostly handle that with a single piece of felt. That’s another way in which I can express myself using my skills.
日本人にとってのスーツとは何でしょう?
まさに、仕事着。誤解を恐れずに言えば、オシャレに見える必要がないものです。体に合って、動きやすく、きちっと、礼儀正しく見える。それがいちばんだと思います。オシャレな男性が増えるのはいいことだとは思うのですが、年下からカッコいいと言われるより、目上からきちんとしていると思われることが大事なのかなと。一定のルールを持ちながら、きちっと着られることが大前提だと思います。夏も、ジャケットよりスーツの注文が断然多いんです。お客さまも、仕事着はやっぱりスーツ、というお考えなのでしょうね。
What do suits mean to Japanese people? They’re work clothes, pure and simple. Some people might take this the wrong way, but I think the Japanese don’t need their suits to look sophisticated. They need them to fit properly, be easy to move in, and look neat and respectable. I think that’s the main thing. It’s more important to be thought proper by your elders than to be deemed cool by younger people.
根本さんの一着は、着る人を物語る、と言われます。
僕のつくる服は地味です。派手さはありません。普通に見えて着やすいことを大前提にしていますから、特徴を探しても見つけにくいんですね。その分、着ていただく方の感覚で、派手にしようと思えば派手に、オーソドックスにしようと思えば、そうできる。スーツ自体はニュートラルな位置付けなので、どっちにでもふれます。根本的な軸からはずれていないスタイルなので、十年後も、古くさくなりません。十年前の服は自分でも着ますが、着やすいですよ。ファッションですから、合わせ、アクセサリー、時計、靴などで流行も取り入れていいと思います。こう着てくださいではなく、僕はスーツをメインに考えて、あとはお客さまご自身が自由にお楽しみください、ということですね。
It’s said that your suits reveal something about the person wearing them, is that true? The suits I make are simple. There’s nothing flashy about them. I take it as my basic premise that they should look normal and be comfortable to wear, so even if you search for distinguishing features, it’s difficult to find any. Depending on his own tastes, if the person wearing the suit wants it to look flashy, he can make it flashy, or if he wants an orthodox look, he can have that.
メジャーメイドで展開に、ご苦労はありましたか?
ビスポークのディテールを、工場での再現に落とし込む作業を徹底的にやりました。ダブルブレストの形状、低めの位置のボタンホール、細い合わせ、剣の立ち方、特徴的な小さいアームホールに太いスリーブとナチュラルショルダーなど、工場と直接やりとりを重ねました。工場の皆さんがテーラーのやり方をご存じないのは当然ですが、最終的には「良いものをつくろう」と歩み寄りながら、「これはできないけど、これなら」とか、そうしたアイデア出しに時間をかけたつもりです。実は今も、やっているんです。ダーツなど、アイロンを使わないと縫えない工程が多いのですが、テーラーのように一人が縫い上げる方法は採れません。解決のために、パターンに戻って考え直すこともしました。ボタンひとつにしてもこだわり抜いて、アンダーソン&シェパードをはじめ、サヴィル・ロウのテーラーで使われているものと同じ二つ穴をチョイスしています。彼らへのリスペクトも含めて。ボタンひとつで、スーツ全体の雰囲気が変わりますからね。二つ穴のボタンは、ヘンリー・プールが最初に使って、ハウススタイルにしました。昔は欲しくても、どうしても譲ってもらえなくて、ヘンリー・プールと取引のある生地屋さんを通してやっとの思いで手に入れたものです。今では、日本でもつくられるようになりました。
Have you experienced any difficulties creating made-to-measure suits? I got caught up in extensive efforts to reproduce bespoke details in the factory. While telling myself it was okay to compromise as long as I created a good suit, I would think, “I can’t do this, but what about that?” and spend a lot of time working on the idea. In fact, I still do this now. But there’s no way that suits sewn or made in a factory can be like those stitched by an individual tailor. To find a solution, I sometimes have to go back to the pattern and rethink it.
ほんとうに細かいところにエネルギーを注いでいるんですね。
お客さまが僕を信頼してくださるのは、お客さま目線だからだと思います。本場で修業したテーラーでも、ボタンへのこだわりなんて、そんなには無いものです。それが、ほんとうにスーツのお好きなお客さまには、かなりマニアックな目があるんですね。ボタンや尾錠にまで価値観を共有できることが、お客さまが僕を好きになってくださる理由のひとつかなと。袖裏の生地をこうしたいとなれば、つくっているところを探し出し、あらゆる手を使って手に入れる。そういうディテールが楽しいんですよね、スーツって。小さなことが、雰囲気をまるで変えてしまう。アンダーソン&シェパードやサヴィル・ロウの服づくりに近づけたいという意識があるのなら、やっぱりそういうところもこだわらないと。
You really put quite a bit of energy into the details, don’t you? I think my customers put their trust in me because I view suits from their perspective. Customers who really love suits are quite fanatical about them. I think one of the reasons that customers like me may be because we value the same things, right down to the details like buttons and buckles.
日本のモノづくりは、今後どうなっていくと思われますか?
若い頃は、僕らも、師匠がつくった服より海外の服が気になったものです。やがて日本人の若者がヨーロッパで勉強するようにもなり、一方、現地では生活も厳しい職人仕事にヨーロッパの若者が就きたがらない中で、ひたすら修業する日本人の器用さやセンスが、逆に向こうが欲しがるくらいのレベルに達してきたんですね。実際にお店を構え、顧客を持つほどの日本人もでてきていますが、大抵の日本人はやがて帰ってしまう。すると、日本人を追って仕事がやってくる。日本国内で縫って、送り返してほしいと。ヨーロッパに憧れる時代は終わり、逆に海外から日本人の感覚、細やかさ、正確さが一目置かれる時代になったのではないでしょうか。一方で、ヨーロッパの服の味わいや雰囲気は、アバウトに縫うことが大切だったりしますが、日本人だと、きれいに縫うことを身体で覚えていますから、むしろ簡単ではない。丁寧さ、正確さも大切ですが、機械のような作業は求められていない。手の味わいがある、絶妙なバランスが、難しいところです。
What kind of outlook to you see for Japanese craftsmanship? The days when we idealized Europe are over, and I think we may now be in a period when, conversely, people overseas respect Japanese people’s taste, subtlety, and precision. On the other hand, rough stitching is important to the style and feel of European suits, but that’s not easy for us as Japanese, since our hands have been trained to stitch precisely.
日本のスーツ文化の今後は、どうなっていくでしょう?
老舗の服づくりは、残すべきだと思います。正統派は、正統派。お客さまが流行も取り入れたいとおっしゃるなら、そうする店もあっていい。選択肢としていろんなテーラーがあって、一辺倒にならない。ぜんぶイタリア、どこもかしこもイギリスになったら、つまらないでしょう。店ごとのスタイルやつくり方、ポリシーをブラさず、それぞれ残っていく努力をしていけば、もっと面白くなるんじゃないかなと。それぞれが今やっていることを、もっと磨いていく。特化しているものが残れば、スペシャルなものをたくさん見ることができる。何よりお客さまが、楽しいわけですよね。
What does the future hold for Japan’s suit culture? I think traditional stores’ suit-making techniques should be preserved. What the various stores are doing now will be further refined. As long as what makes those stores special is retained, we’ll see a lot of special suits in future. What’s more important than anything is that customers are happy.
「JAPAN SENSES」にエールをお送りいただけますか?
僕らは職人ですから、ものづくりはできても、発信できる力がすごく小さい。そこを、三越伊勢丹さんが、もっと大きいかたちで、メディアにアピールしてくれるっていうのは、すごくメリットがあります。お客さまにとっても、こういう世界があったのかって、初めて知る方もすごく多いと思うんです。他の領域でももっとコアな職人さんがいるかもしれないですし、職人同士の出会いが生まれて、新しいもの、良いものが、もっとつくれたらいいですね。
Do you have a message for JAPAN SENSES? For Mitsukoshi Isetan to provide me with media publicity on a larger scale is extremely valuable. It has allowed me to meet fellow artisans, and I hope it will lead to me making new and better suits.
ありがとうございました。 Thank you very much.
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